Cycling&Resistance

トレーナー資格者が自転車選手は筋トレすべきと説くブログ。

自転車のオーバートレーニング(前編)

私は2017年8月~2年間にわたりオーバートレーニング症候群(Over Training Syndrome:OTS)を体験しました。

今でも完全に元に戻ったわけではありません。高強度の練習をした日はどうしても眠りが浅くなりますし、数日間は疲労が残ったりします。

 

実をいうと、トレーニングの勉強を開始したのもOTSになり、今までの自分の無知と浅はかさに嫌気がさしたからであり、知識を求めた延長線上にあったのがNSCA認定資格とトレーニング指導という仕事だったように思えます。

 

まだまだ勉強不足を痛感する毎日ではございますが、この辺でいつか話したかったOTSについてまとめたいと思います。

 

今回はOTSとは何かについて。

次回以降は私のオーバートレーニング体験談、そこからのコンディション回復について書いていきます。

 

初めにことわっておきますが

OTSは練習を長期間にわたってハードに行いすぎると誰でも陥る可能性があります。

週末のたびにチーム練やレースで追い込み、平日もトレーニングを行っている方にはなんとしても読んでいただきたいです。

 

 

 

オーバートレーニングとオーバーリーチングの違い

 

OTSの概念は非常に複雑です。

一般的に「今週は頑張りすぎたのでオーバートレーニングだ」といった用い方をよく見かけますが、厳密にはこれはOTSではありません。

 

このような短期間のパフォーマンス低下は「機能的オーバーリーチング(Functional overreaching:FOR)」と呼ばれます。

FORは過度なトレーニングによって引き起こされ、通常は数日~数週間の回復期間(テーパリング期)を設けることでパフォーマンス水準はFOR以前に戻る、または向上します。

そのため、ごく短く過度なトレーニング期間を設定することでFORを誘発し、超回復効果によって計画的にコンディションを高める方法も存在します。この場合、数週間のパフォーマンス低下は意図的なものであり大きな問題は生じません。

 

しかし、計画的ではなく例えばチームの練習・ソロ練習の負荷が急激に増大したことでパフォーマンスが低下してしまった場合はどうでしょう。

つまり、本人はこの実力低下がFORによるものだと気付いていない場合です。

疲労のせいかもしれないから、しばらく練習は控えめにして様子を見よう」

と、積極的に休養を取るのはとても良い判断です。

 

ですがロードレーサーはストイックです。多くはこう考えます。

「遅くなったのは練習が足りないから。周りの速い人はもっと沢山練習している。自分も練習量を増やさないと!!」

かつて私もそう考えていました。人体は不思議なもので、実際に同じシチュエーションで練習量を増やして効果が出る方もいます。

 

しかし、たいていロクな結果を生みません。

こうして無理やり練習を増やした結果、引き起こされるのがオーバートレーニング症候群(OTS)です。

 

数年間続くオーバートレーニング症候群

 

FORでパフォーマンスが低下し、身体から発せられる警告を無視してハードなトレーニングを継続すると段階を経てOTSへと移行します。

 

OTSではパフォーマンスの低下や疲労感が数ヵ月~数年間にわたって持続することも珍しくありません。

この期間の長さは競技者にとってたいへんな恐怖ですが、さらに恐ろしいのはその症状の複雑さと判別の難しさでしょう。

 

これまでは単純な疲労感やパワーの低下を感じるのみだったかもしれません。

しかしOTSまで進むと以下のように様々な自覚症状が出現します。

(ホルモン濃度や生化学的な変化はここでは省略します。)

 

・継続的な疲労と説明のつかないパフォーマンス低下

・説明のつかない筋肉痛、筋疲労、脱力感

・パワー発揮の低下と主観的運動強度(トレーニング中の辛さ)の上昇

・最大下運動時(限界以下の強度での運動)の心拍数の増加

・安静時心拍数の変化

・血圧の変化

・体重の低下

・食欲の低下

・貧血

・動悸、不整脈

・情緒障害(怒りっぽさ、苛立ち、抑うつ、気分の落ち込み)

睡眠障害(不眠、または過眠)

 

通常、これらの複数の変化が生じる場合がほとんどですが、症状の度合いは人によって大きく違います。

病気かな?と感じて医療機関で検査を受けるも原因不明。しかしパフォーマンスは低下し続け、身体はずっとだるい。という状態が実はOTSだったというケースも多いようです。

また、一見すると矛盾する症状(過眠と不眠、安静時心拍数の低下と上昇など)を呈することもOTSをより一層複雑にしています。

あまりにも人によって症状がさまざまで、血液検査を行ったとしても決定的なマーカーは存在せず、OTSを単独で断定できる基準は現在のところありません。

 

すべてのOTSの競技者に共通していえるのは

「継続するパフォーマンス低下と適応不良」

「トレーニング負荷が維持または増加する際に、高強度運動を続けることが出来なくなる」

であり、練習しても強くなるどころかどんどん弱くなり、疲労感が強まっていく・・・という状態だといえます。

これが数ヵ月、長ければ数年続くのです。競技者にとっては地獄そのもの。

 

一度陥ってしまうと本来のパフォーマンスを取り戻すのに長い期間を要し、最悪の場合、二度と元のように速く走れなくなることもあり得ます。

また、FORとOTSの境目が非常にわかりづらいことも難解さに拍車をかけています。

症状やパフォーマンス低下の程度が人それぞれであり、ここまでがFORでここからOTSです、という指標や基準は現在のところ存在しません。

 

原因はなにか?

 

では、OTSの原因とその予防策はどのようにしたらよいのでしょう?

 

原因に関してはまだはっきりとわかっていない部分が多いのですが、

 

・トレーニング量の大幅な増加 

・トレーニング強度の大幅な増加

・単調なトレーニングの存在

 

といった練習に直接関連した部分のみならず、

 

・不適切な栄養摂取、睡眠不足

・長時間の労働、人間関係など日常生活のストレス

・環境要因(暑さや寒さ、転居による住環境の変化)

 

これらの生活要因が複雑に相互作用してOTSを引き起こすと考えられています。

 

私が見てきた例では通常、トレーニング量・強度の両方を一気に増やしてしまうとOTSのリスクが大きく高まるように感じられます。

 

また、量と強度を増しても問題なくトレーニングを継続できたとしても、仕事が忙しくなり、残業時間もストレスも増えたが、睡眠時間は減った・・・

 

という具合に、日常生活の大きな変化が加わると身体の適応システムは簡単に破綻し、OTSのリスクは増大します。

 

このように、日頃の練習によって引き起こされる筋繊維や細胞の微細な損傷が不十分な回復によって蓄積していき、個人が耐えられる閾値の限界を超えたところでOTS症状を呈するようになる、というのが現時点で有力な説の1つであり、私もその様に考えています。

 

原因が判明していない以上、具体的な予防策を講じるにも限界がありますが、

「トレーニングと休息のバランスを取らなければいつか必ずOTSを経験することになる」

これだけは事実です。

 

仕事が忙しくてどうしても乗れない時、嫌なことがあってストレスで体調が悪い時、酷暑でとても運動したくない時・・・etc

 

こういうときは無理してトレーニング量や強度を増大させずに様子を見るか、疲れがひどければ休養日にする、シンプルですがそれが一番の予防策です。

特にパフォーマンスのおかしな低下が見られたら即座に休養をとるべきです。

 

OTSに陥らずに耐えられる練習強度、量は人によってかなり大きく違う

 

ここまでOTSの複雑さと恐ろしさについて論じてきました。この見出しで最後になります。

 

私自身の2年間にもわたるオーバートレーニング症候群の経験で学んだ最も重要なことについて語ります。

 

 

細かい事抜きでざっくりいうと

Aさんは週20時間の練習を1年続けても余裕

Bさんは週10時間の練習を半年続けるとオーバートレーニングに陥る

このような不平等が平気で起こります。

 

これらの決めるのはトレーニング経験や生活要因、そして何よりも生まれもった個人の強さだと考えています。

 

今までハードにトレーニングを行ってきた人は初心者の方よりもずっと耐性が高く、より多くの練習量と強度に耐えることが出来るのは何となくわかるかと思います。

継続して負荷をかけることで体力は向上し週あたり、月あたりに行えるトレーニングの量は増大します。

しかし、最終的にその人がどの程度の練習に耐え、パフォーマンスを向上させ続けることが出来るかは生まれ持った個人の強さ、つまり遺伝的要因に依存する部分が大きいと思います。

「キツい練習に多く、長く耐えられる才能」があるということです。

 

もちろん、才能が無いから練習しても無駄と言うつもりは毛頭ありません。

 

練習会やレースで千切れて落ち込んだ時、伸び悩みを感じている時・・・このような時に闇雲に練習量を増やすのは危険、といいたいのです。

どれだけの練習に耐えられるかは本人でも正確にはわかりませんし、その時点で適応できる練習量の限界に達していた場合、単純に距離を乗ろう、強度を上げようというアプローチではOTSという悲惨な結果を生む可能性があります。

そのような場合、集団内での自身の立ち回りやフォーム、ペダリングの改善に取り組む、といった技術的な側面に目を向けた方がよっぽど生産的でリスクも少ないでしょう。

 

周りが何時間練習していようと、もっと練習しなさい、とアドバイスを受けようと関係ありません。

がむしゃらに練習量を増やす前に一度、自身の練習負荷と生活をじっくりと見つめ直してみてください。

 

この記事が皆さんのオーバートレーニング防止に少しでも役立てばと心より願っております。

 

もしも継続したパフォーマンス不良、抜けない疲労感に苦しんでいる場合は一度ご連絡下さい。

月々のトレーニング指導やアドバイスを実際に行う場合は有料とさせていただいておりますが、軽いご相談や疑問であれば無料でお答えさせていただきます。

rhcpflea1983@gmail.com

 

 

参考文献

ストレングストレーニング&コンディショニング第4版119p-123p,142p-145p